「伝える」ことを考える 2007.02.28
    
    デザビレの第2期入居者が決まりました。もう審査が終わりましたので、私が面接の中で感じたことをお話ししたいと思います。
    
    
    ■相手の求めていることを察する
    
    予備面接では、まず「自己紹介」をしてもらいました。
    ところがほとんどの方が「自己紹介して下さい」と言われると、「えっ」と一瞬困った顔をします。
    
    おそらく人生の中で自己紹介してください、といわれる機会というのはあまり無いので、とまどってしまったのでしょう。
    
    短いと会社名と名前を言っただけで終わってしまい、次の質問を待つ人もいましたし、自己紹介で40分以上かけて作品の一つ一つまで詳しく説明して、こちらの質問の時間が無くなってしまう人もいました。
    
    自己紹介では何を話せば良いのかわからない、どこまで言えばいいのかわからない、という方が大半でしょう。
    
    そういう時は『なぜ自己紹介をしてもらうのか?』という質問をする側の意図を考えてもらうと良いのではないかと思います。
    
    どうして審査するのか、審査で何を知りたいのか、何が求められているかを察することができれば、少しは伝える内容や伝え方に想像が付くのではないでしょうか?
    
    これは自己紹介だけに限りません、ビジネスの場にも言えることです。
    ちょうど、成績の良い営業マンは相手の聞きたがっていることを答え、成績の悪い営業マンは自分の話したいことを自分勝手に話すようなものです。
    
    ブランドの売り込みにショップに行くのでも同じです。
    相手のバイヤーが何を求めているか考えずに、まるでテーストの違うショップに持ち込んでも上手く行くわけがありません。
    
    相手が求めているモノを察して、それに対する答を提供することが大切なのだと思います。
    
    
    ■伝えることのキャッチボール
    
    審査側が知りたかったのは、人柄や事業に対する意気込み、事業の成長性、支援の必要性等でした。
    
    私の場合は、紙に書かれた事業計画や作品よりも、「その人自身」をできるだけ理解したいと思っていました。
    
    ですから、その人の目標や事業に向かい合う姿勢を確認するために、わざと答えにくい質問を投げかけることもありました。
    答える内容も大事なのですが、どのような態度で質問に向き合うかに注意していました。
    
    こちらから投げかけた質問というボールを、どのように返してくれるか、というのは人それぞれ違っていました。
    
    こちらから投げかけた質問に対して、まるでボールを手元でもてあそぶ様に、自分の内側に閉じこもって、自分に言い聞かせたり、さらに自分に質問を投げかけていて、質問に対する答が戻らない人がいました。自分探しを始めてしまったんでしょうか。
    
    質問をしている人を見ないで投げ返すような、あらかじめ書かれた原稿を読むだけ、ポートフォリオの説明をするだけ、という人もいます。できれば本人の意志を本人の言葉で聞きたかったです。
    
    また2人で面接を受けに来た人の中には、2人でキャッチボールを始めて、こちらに投げ返さないような人もいました。
    2人で目を見合わせて相談を始めたりするのです。
    
    それから、その人自身が行う事業について聞いているのに、社会や既存の販売システムに対する批判を始めてしまう人もいます。
    審査する私たちの頭をはるかに飛び越えて、はるか彼方の社会や市場に向かってボールを投げているのです。
    正論なのですが、その人自身がその問題にどう関わるかが伝わってきません。
    
    ものすごく自信がなさそうに、そろそろとボールを転がして、途中で止まってしまいそうな、こちらに伝わる前に消え入りそうな人もいました。
    
    また、やたらと勢い良くボールを返してくるのですが、こちらの手元に戻ってこない人もいます。質問の意図を理解しないで、自信満々でまるで外した答をする人です。
    
    さて、無理やりなこじつけもありますが、そのように感じられた人がいたということです。これらの人達に共通するのは、「人との関わりを閉じてしまっている」ような印象を受けることです。
    
    目の前に質問をしている人がいるのに、その人の質問を聞いていません。
    目の前に話を聞きたい人がいるのに、その人に伝えようとしていません。
    質問が発せられた意図を理解しようとせずに、言いたいことだけ言います。
    とにかく言葉を発するだけで、伝えたいという気持ちが乏しいように感じられる人もいます。
    
    もちろん緊張していたのでしょう。私達も緊張していました。
    少ない言葉から察してくれ、と思われるでしょうし、その努力もしました。
    
    しかし面接の中でも、ものすごい緊張していてガチガチになりながらも、何とか質問を理解して、少しでも自分の気持ちを伝えたい、と一生懸命に「伝えること」に向き合う人もいたのです。
    
    伝えることのキャッチボールに慣れていないので、もの凄く投げ方が下手だったり、バウンドしたり、スピードが遅かったりするのですが、とにかく、相手をしっかり見据えて、何とか正面に投げ返そうとするのです。
    
    ひどい緊張を乗り越えても、何とかしてコミュニケーションを取りたい、自分を理解してほしい、という強い意志が感じられるのです。
    
    逆に、せっかくいいことを言っていたり、しっかりした内容なのにあまり意志が伝わってこないという人は「相手と向かい合う」のではなく、計画書や、自分や、目の前の作品や、社会問題などと向かい合っていたように感じます。
    
    だから目の前の人に十分に伝わらなかったのではないでしょうか?
    
    作品を説明することや、経歴を話すことや、計画書を読むことも大事なのですが、それらの会話を通して、その人がどんな人なのかを理解したい、という我々の意図を少しでも考えようとしてくれたでしょうか?
    その人自身の可能性を感じさせてくれたでしょうか?
    
    悪いところを見つけたいのではなく、可能性を伝えて欲しかったのです。
    
    よくデザイナーは(自己)表現をしたい、ということを言います。
    表現と言うのは作品と向かい合うだけではなく、人と向かい合い、どうやって人に「伝える」か考えることも重要なのではないでしょうか。
    
 株式会社ソーシャルデザイン研究所
    
    株式会社ソーシャルデザイン研究所