マイノリティトレンド(Bagazine インタビューから)2007.12.27

●今のクリエイターに求められているもの

クリエイターにとってここ最近の市場は厳しいのではないか、と感じています。
というのは、大手メーカーや問屋が、これまでクリエイターが作っていたような
ニッチ分野まで追いかけて、本来棲み分けていた部分、ボーダーラインが無くな
ってきているような気がするからです。

大手企業が工業製品的ではない手作り感のある商品まで、手がけるようになって
きました。

片や知名度が低いクリエイターブランドの価格が高い商品、一方は、ある程度知
られている大手企業ブランドで値頃感のある価格に抑え、クリエイターが得意で
あったクラフトタッチの商品を出している、そんな状況で若手クリエイターが戦
うというのは、非常に厳しいものがあると思うんです。

マーケットを見ると、以前はある程度若手クリエイターの商品を買い付けていた
セレクトショップでも、その予算を減らしつつOEMによる自社製品にシフトし、
クリエイターの商品を扱うスペースが縮小するところもあります。

仕入れるにしても、定番品としてではなく、売場の演出に繋がるような雰囲気の
目新しいもの、個性的なものを少量ピックアップする程度になっています。

そんな現状のなか、クリエイターに求められているものは何か?をお店サイ
ドの視点で考えることも必要ではないでしょうか。

あるバイヤーは「自分の店をよく見て欲しい。この店ならどのような商品だった
ら置くかということをちゃんと想定してプレゼンし、売り込んで欲しい」と言っ
ています。
その店にある主力商品とバッティングするようなものを提案しても、まず置いて
はもらえません。テイストが全然違ってもダメ。

「店の売上げの柱となるものではなく、アクセントになるものが欲しい」という、
お店の立場をきちんと認識した上での提案をしなければなりません。

安定して売れるものというよりは、大手には作れないようなもの、お店に新鮮さ
やシーズン性をだすものが若手ブランドに期待されていると感じます。

●絞り込むことで、選択肢を広げる

しかし、真面目なクリエイターは、正攻法できっちりモノを作ってきます。
そうなると、最も大手企業との競合が多い市場に、競争の激しい商品で入ってい
くことになります。

例えば、トレンドを追いかけた商品。大手企業は豊富なバリエーションで展開し
てきます。商品の幅が広いとお店もその中から選択することが出来るし、コーナ
ーも作りやすく扱いやすい。早く安く仕入れることもできます。
似たようなテイストのものをクリエイターが作っても、圧倒的に数が少なく選択
の余地がありません。

さらに、問屋のデザイナーが1シーズンに100型デザインしているとすれば、クリ
エイターは10型というのが現状です。
マーケットでは何が売れて何が売れない、というフィードバックもされないまま
に、偏った情報でものを作っていることになります。
となると、やはり大手と競い合うようなトレンド商品での勝負は厳しいのです。
(ただ、まったくトレンドを無視しても売れない、という部分もあるのですが…。)

今回のキーワードにもなっている「マイノリティ・トレンド」のように、すごく
絞り込んだマーケットをいかに自分で作っていくか、というところが重要になっ
てくると思います。

大手企業は総合力、品揃えの広さで戦い、できるだけお店に来たお客さんを逃さ
ないようにする。それに対してクリエイターは、「あれもやるこれもやる」では
なく、その中のどれかを切り崩す、一点突破するという考え方で立ち向かわなけ
ればいけません。

例えばアイテムで考えると、トート、ショルダー、ボストン、リュックなど、ブ
ランドの中で色んなタイプのバッグを作ると、1つのアイテムの中での選択肢が1
つしか無いという場合が出てきます。その限られたアイテムだけで、ブランドの
好きか嫌いかを判断されてしまうのです。

それではボストンだけに特化し10型作ったとしましょう。そうすると、ボストン
バッグを探している人にとっては大手企業のブランドよりも選ぶ余地があり、そ
の中で気に入ったものを買ってもらう確率が高まる、と言う訳です。

アイテムを絞ることで、お客様にとっては逆に選択肢が広がるのです。

大手企業の商品と同じ土俵で勝負する場合、局所的な戦いで勝てる場面を作って
いかなければ売れません。
今はアイテムの事を話していますが、それは、ブランドのコンセプトの深み、
世界観の深み、といった部分でも同じ事が言えるでしょう。

●ものを売ることよりブランドのファンを作る

さて、ではクリエイターはどうやって「局所的に勝てる場面」を作るかということ
ですが、若手ブランドやクリエイターだからこそできる事、大手企業に対して強
みを持てる事は、コンセプトの「背景になる情報量を好きなだけ増やせる」事だ
と思います。

例えば、「サッカー好きな人のためのバッグを作る」というテーマを決めた時、
大手企業ではあまりその背景は重視せず、サッカーというモチーフだけに着目し、
深く掘り下げなくても商品を作ることは出来ます。

むしろ購買ターゲットを広くするために、こだわりすぎることができません。

一方、クリエイターがそれを作る時、サッカーグッズを知り尽くし、その分野で
はスペシャリストだというほどの詳しい情報をベースにして商品を作ることが勝
ち目のある戦い方だと思います。

例えば、フットサルとサッカーとでは、使用するグッズも違うのだから、バッグ
も違うはず。「なぜ違わなければいけないのか、どういう機能が必要なのか」と
いうことをきちんと説明して作れるほどの情報量を持つことが、クリエイターと
して必要なことではないでしょうか。

例えば、デザビレに入居しているアクセサリーのクリエイターで、株式会社マニ
ファニの谷さんがいますが、彼は昆虫への造詣が非常に深く、豊富で詳しい知識
を持っています。
彼の作る昆虫をモチーフにしたアクセサリーは、昆虫の世界観のようなものが背
景にあって、そこから生まれてくる背景の広がりがすべて商品に活かされ付帯し
ている。
この点に関しては情報量が圧倒的で、大手企業と戦っても勝てる場面ができてい
ると思います。

若手クリエイターのブランドで、そういった情報量も含め「語るところ」をきち
んと持っているかが問題です。商品説明を求めた時に、色、柄、素材、形といっ
た、目に見える部分しか話せない人は少なくありません。

「どうしてその形が生まれてきたのか」という、その人なりのストーリーだとか
バックボーンになる趣味や特技といった部分を知ることによって、そのブランド
や作った人への興味も湧いてくるものだと思います。

クリエイターは単に製造するだけでなく、作ってさらにブランドを好きにさせる
ことが最終的な目的だと私は考えています。

「商品が売れる、売れない、何個売れた」というように、ものベースで勘定する
のではなく、小売りに近い発想で「このブランドを好きなお客さん、コアなお客
さんは何人いるか、機会があれば買ってくれるお客さんは何人いるか、名前を知
っているお客さんはどの位いるんだ」と、お客さんを集めることがブランド活動
の最終目的だと思うんです。

ブランドを好きになってくれるファンを増やす活動をどれだけするかが、ブラン
ドコンセプトとかブランドの見せ方で大事な部分。
むしろこの活動の方がクリエイターにとっては大切なことだと思います。


●自分のお客様を把握し、的確なアプローチを

商品は、大手企業が作ろうがクリエイターが作ろうが、手を離れて独り歩きして
いくものです。しかし、その商品の価値をエンドユーザーにまで一貫して伝えて
くれる仕組みを作り上げることは、非常に難しいことです。

「もの(商品)だけ見てくれれば分かる」と言うクリエイターもいますが、見た
だけでは分からないような、その商品にまつわる価値をどうやって伝えるのでし
ょうか。
デザイナーの話したことがバイヤーに伝わり、バイヤーに伝わったことが販売員
に伝わり、それがきちんとお客様まで伝わるルートを作ること、自分の手を離れ
ても商品が売れるための準備をすることが重要だと思います。

伝えていく過程を通じてお客さんを増やしていくんじゃないでしょうか。

また、自社ブランドに対してのお客様の購買意識レベルは様々なんですが、
ブランドを全く知らないお客さんであれば、まず、その人の注意を惹き、興味関
心を持ってもらい、欲しいと思わせて買ってもらう、という様にストーリーに沿
って次のステージ、段階に誘導していくんです。

ブランドの名前も知らない人に、いきなり「買ってください」はないですし、
価値が伝わらなければ、好き嫌いと価格の安さだけで判断されてしまいがちです。
逆に既に欲しいと思っている人に今さら広告を見せてもしょうがない。

お客さんがどの段階にいるかによって、アプローチの仕方や仕掛け方も変わって
きます。つまり、自分のお客さんをしっかり把握していなければ、この作業はで
きないのです。
展示会での見せ方からお店に卸すまでのルートも、このストーリーに当てはめて
考えることが出来ますね。

バイヤーから見ても、ものだけの勝負であれば、試し買い的に単品でピックアッ
プする取引きしか意識しませんが、きちんとブランドを売り込んでお客さんを育
てるという姿勢が見えれば、「売り場でコーナーを取ろうか」と考えるようにな
るでしょう。

単品だけの勝負では、値頃感で大手企業の作っているものにはかないません。
若手クリエイターは、ものを売るという発想ではなく、自分のブランドを好きな
お客様や取引先を増やしていく考えにシフトしていった方が、継続的なビジネス
がやりやすいと思います。


●参考 マーケティングプロセス

A:Attention(注意)
  全く名前を知らない、存在を知らないものは購入することができません。
  まずは消費者の注意を引いて、ブランドや商品の存在に気づいてもらいます。
    ・プレス対策
    ・広告
    ・DM発送

I:Interest(興味、関心)
  聞いたことがある、見たことがあるだけの商品から、内容に関心を持っても
  らいます。実際に手に取ってもらってじっくり見てもらう段階等です。
   ・展示会出展
   ・資料請求
   ・ホームページでの検索対策

D:Desire(欲求)
  関心があっても欲しいと思える魅力が無ければ購入にいたりません。どうし
  ても欲しい、買いたいと思わせる魅力を提示する段階です。
  主に商品力勝負です。
   ・商品デザインの見直し
   ・パッケージ
   ・プレゼンテーション

C:Conviction(確信)
  その商品が本当に良いものかどうかという確信を得ることで購買に至ります。
  他商品と比較したり、使用者の声、有名人の推薦などの証拠を用います。
   ・ホームページ、会社案内の見直し
   ・顧客の声データなどの収集

A:Action(行動)
  購入するという行動。実際に行動を起こしてもらいやすいように決断を促す。
   ・クロージング・提案営業
   ・商品保証、返品など
   ・値引き、セット販売、限定商品など

S:Satisfaction(満足)
  消費者の多くは商品を購入した後に「この商品を購入してよかったのかか」
  という不安を持ちます。その不安を解消して、リピーターに育てます。
   ・修理サービス
   ・アフターフォロー
   ・ニュースペーパーの発行


●「欲しいが市場に無い」ものを見つける

クリエイターは独創的なものを作っていると思われていますが、そうとも限らな
いことが結構あります。

その理由を突き詰めると、「デザインソースになる井戸の掘り下げが浅い」とい
うのが見えてきます。コピーという事ではないんですが、芸術的な素養であると
か文学的素養など、デザインのネタ元となる情報量や知識、経験が少ないため、
どこかで見たことのあるものを何となく作ってしまう。

クリエイター、デザイナーという仕事とは別ジャンルで、例えば「民族衣裳が大
好き」とか「化粧品にとても詳しい」というような、自分がとことんこだわって
いる知識や経験の深みを持つ人は強いと思います。

そこからデザインソースを引っ張りだしてモチーフにし、自分のデザインに応用
する事ができるのです。
商品を作るために自分だけの発想の源泉が無いと、単に素材とパーツとデザイン
を組み合わせる編集作業だけになってしまい、独創的なものは作れません。

デザインソースの世界観が深ければ深いほど、その世界観が好きな人が集まって
きます。その人たちは高くても欲しいものは購入してくれます。
さらにその人達からも役立つ情報を得ることが出来て、それを基に商品を開発し
たり、世界観をもっと掘り下げることができる。
このように自分のブランドを核にしてコミュニティが出来てくることが理想型だ
と思うんです。

「ものを売るだけ」ではなく、「情報を提供」してあげて、その「世界観を共有
するお客様を育て」、ブランドの「世界観を広げる」というアプローチは、大手
企業にとってはかなり手間なのです。
組織体制であることが逆にネックになるんです。
企画・デザイン、販促、営業といった各部署が意識を1つにしてやらないと、この
やり方は非常に難しいですから。

その点、クリエイターは最初から最後のお客様と関わるところまで、やろうと思
えば自分ひとりで出来る。目が届く範囲隅々まで、自分のこだわりを薄めること
なくアプローチができるのが大手企業に対する最大の強みですね。


さて、「お金(ビジネス)のことを考えるのはクリエイターではない」と考えて
いる人もいるようですが、ものと自分の間だけの関係でもの作りをしているので
あれば、それはアーアイストか趣味の世界のどちらかです。

純粋にデザインだけをしたいのであれば、企業のデザイン部門に就職すべきだと
思います。独立してやるということは、9割は経営の事を考えなければ成り立ち
ませんから。

ですが、常に拡大成長を求められる企業と違って、独立したクリエイターは自分
の納得する売上や利益、仕事時間のバランスを取ろうと思えば取ることができる。

少量だけど自分がこだわって作ったものを、その価値が分かる人、欲しいと思っ
てくれる人だけに売っていくのも1つのやり方として選択できる自由がある。

無理をして大量に作って売らなくても、自分が幸せを感じ生活できる範囲の収入
であれば、事業規模をその段階でストップすることも可能なんです。

商品というものは「どこでも売っていて、どれか安いのを買えばいい」というも
のと「どこにも売ってないから、いくら高くても買いたい」という2種類に大きく
分けられます。
前者は大手企業の商品であり、後者がクリエイター、デザイナーの商品。

クリエイターが作るべきものは、マーケットに溢れているものと同じようなもの
ではしょうがないのです。
皆が欲しがっているけど市場に無いものをどうやって探すか、「欲しいんだけど
形として商品になってない」商品を見つけだして作り出す事が、独立したクリエ
イターにとってとても重要な事であり、ブランドビジネスを成功させるポイント
だと思います。